Alpha Commentary: 社内にバリュエーション機能を持つ意味はあるか?

M&Aやスタートアップ投資、大規模な設備投資や研究開発投資などの投資活動において、バリュエーション(公正価値評価)は最終的な取引価格の決定だけでなく、会計や税務など様々な面で重要な役割を果たしています。そして一般的に、バリュエーションとは外部の第三者評価機関に依頼するものと考えられており、取引の当事者とはいえこれら外部評価機関に任せきりでノータッチという企業も少なくありません。確かに、当事者のバイアスがかからない、客観的な評価を担保するため、独立的な第三者が評価を行うことは外形的にも極めて重要です。しかし、そのような場合であっても、自社の内部に一定程度、バリュエーション機能を持つことによって得られるメリットがあります。

第一に、投資プロジェクトの価値創造プロセスやリスクについてより深い理解を得られ、合理的なM&A交渉戦略等の立案が可能となります。外部評価機関がバリュエーションを実施し、企業がバリュエーションレポートを受け取る場合、もちろん評価機関からのプレゼンテーションなどで一定の理解は得られるものの、プロジェクトの将来キャッシュフローやリスクの前提、その他のインプット(計算要素)や手法の選択の合理性の程度、またそれらがどれだけ結果にインパクトを及ぼし、どの程度結果が確からしいのか、といったニュアンスを伴う情報まで入手はできません。自社内でバリュエーションが可能であれば、そのような情報も活用できるほか、投資の検討段階から最終的な決定に至る様々な段階において、各種のシナリオやリスク要因が価値に与える影響をシミュレーションを通じて分析でき、交渉における相手側の主張に対する定量的な評価なども可能となり、柔軟で機動的な意思決定が可能となります。

第二に、ガバナンスの高度化です。企業内のリスク管理部門や取締役、監査役は、投資活動を先導する事業部門に対して投資の合理性を検証し、必要な場合には有効な牽制役となることが求められます。もしリスク管理部門が一定のバリュエーション機能を有していれば、投資の合理性について、定量的な根拠に基づき議論することが可能となります。なお、ここでは外部評価機関との議論も想定されます。独立的な第三者という立場とはいえ、外部評価機関が直接の依頼者の意向を無視できるわけではありません。M&Aの実務などでは、最初から買手や売手が希望している価格に合わせて、(会社と評価機関の協議?によって)業績予測を調整するという行為も起こり得ます(1)。したがって、リスク管理部門や取締役、監査役が外部評価機関のバリュエーションを適切にレビューするためにも、内部のバリュエーション機能が有効な手段となります。また、自社のバリュエーションによって投資の合理性が確認できれば、株主や金融機関、監査法人などステークホルダーとの間でも、自信をもったコミュニケーションが可能となります。

最後にコスト効率です。上記のように、投資検討のためのシミュレーションなど、内部検討目的であれば、必ずしも外部評価機関の評価は必要ありません。また、小規模案件など、あまりコストを掛けられないケースにおいて、内部バリュエーション機能があれば、機動的な対応が可能となります。必要な局面のみ外部評価機関に依頼することでコスト効率が高まります。

もちろん、以上のようなメリットがある一方で、人材の確保やトレーニングなど、社内にバリュエーション機能を構築する(バリュエーションを「内製化」する)ことは一朝一夕に可能なことではありません(筆者の知るケースとして、一部の商社など、専門的人材で構成される社内組織を有している例はあります。)。しかし、上記のような目的においては、バリュエーションのスキルは必ずしも完全である必要はありません。また、社内のバリュエーション機能があるとしても、外部評価機関や専門家との協働がなくなるわけではなく、当初の期間は社内スキルアップのためのトレーニングやコーチングのため、外部の専門知識を積極的に活用することも有効です。いずれにせよ、バリュエーションは投資活動の重要な一部分であり、投資主体としての企業(あるいは投資ファンド)が自ら「手を動かして」取り組むことにより、一定の果実を得られる可能性がある、ということは検討の余地があるのではないかと考えます。(池谷誠)

(1) 鈴木一功「企業価値評価 入門編」(ダイヤモンド社)、252頁。

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