Case Study: ソフトウェア著作権の価値が争点となった事件

インターネット・サービス企業A社は、ソフトウェア開発企業B社と一部の事業部門に係る業務システム(「本件システム」という。)に係るソフトウェア(「本件ソフトウェア」という。)を共同開発しました。A社とB社との間の契約において、両社が本件ソフトウェアの著作権を共同所有とすること、ただし一方当事者が自社持ち分の処分を望む場合、相手方当事者が優先買取権を有することが規定されていました。近年になりB社はA社と同社持分処分について交渉しましたが成立せず、その他の事情により第三者への売却も困難となったため、裁判所に対して価格決定申立を行いました。

裁判所は、本件ソフトウェアの著作権の価値を検討するにあたり、第三者の公認会計士を鑑定人として選任しました。鑑定人は、本件ソフトウェアがA社業務において重要な役割を果たしているとして、同社事業部門の営業利益に対して一定の貢献割合を乗じた将来キャッシュフローに基づくインカムアプローチ(DCF法)による評価手法を採用しました。ただし、貢献割合については正確な推定が難しいことから、知財実務において利用されているルール・オブ・サム法(特許実施製品の利益の25%に相当する実施料をライセンス料とする考え方)を採用し、本件ソフトウェアの著作権の価値としてB社の主張に近い、高額な金額を認める鑑定書を提出しました。

アルファフィナンシャルエキスパーツの専門家は、A社より依頼を受け、①ルール・オプ・サム法は、かつて米国の特許訴訟等で経験則に基づく貢献度の推定方法として利用されていたが、Uniloc事件(1)における連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判決で不合理として明確に否定されて以降、米国において使用が認められていないこと、②本件システムは、A社事業のバリューチェーンの中の多数の機能のうち一部を占めるものであり、関連費用に基づき推定した場合の貢献度も25%よりははるかに低いものであること、③さらに、本件ソフトウェアは、その他のソフトウェア、ハードウェア、組織や人的要素など本件システムを構成する要素の一部にすぎないこと、③インカムアプローチによって算定される価値はあくまでA社にとっての使用価値であり、取引意思のある第三者との交渉を前提とする公正価値ではないこと、④市場における技術革新や世代交代などにより本件ソフトウェアは陳腐化しており、一般的な会計基準に基づくソフトウェアの耐用年数(5年)なども考慮すると、コストアプローチあるいはマーケットアプローチにより算定される本件ソフトウェアの価値は非常に小さな金額であること、などを内容とする専門家意見書を提出しました。

上記意見書に係る議論の後、裁判所は鑑定人による鑑定書を採用せず、和解勧告を行い、結果的に鑑定人による鑑定書の算定結果よりも大幅に低い金額での和解が成立しました。

(1) Uniloc USA,In c.v. Microsoft Corp.,63 2 F.3d 1292σed. Cir. 2011)

*「Case Study」は、弊社専門家が最近関与したクライアント事例の中から参考となるものをピックアップして掲載するものです。守秘の観点から一部事実関係を変えて記載することがあります。

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