Alpha Commentary: 仮想通貨は有価証券か?-最近の米国規制と証券訴訟の動向

先月25日、ロイターの報道(注1)により、仮想通貨(暗号資産)交換市場を運営する最大手企業コインベースが、本来有価証券として取り扱うデジタル資産を米国民に不適切に取引させている疑いがあるとして、米国SECの調査対象となっていることが明らかとなりました。また、SECはこれに先立つ7月21日、同社元従業員をインサイダー取引の容疑で告発していますが、その中で、コインベースの取引プラットフォームで取引されている仮想通貨のうち7銘柄を有価証券であると述べており、SECが仮想通貨の少なくとも一部を有価証券として位置づけ、規制の対象としていく方針であることが示されています。

旧来より仮想通貨の法的位置づけは不明確でしたが、これまで明示的には有価証券としての規制の対象として扱われてこなかったため、上記のSECの動きは驚きをもって注目されています。コインベースは、仮想通貨は商品であり有価証券でないとの立場から、SECとの対決姿勢を明らかにしており、同様の立場から仮想通貨に対する監督権限を行使してきた米商品先物取引委員会(CFTC)の委員が、「執行を先行させることで既成事実化しようとする衝撃的な行為」として異例のSEC批判の声明を出しています(注2)(注3)。

もし仮想通貨が有価証券として取り扱われるのであれば、具体的な規制の内容、とりわけどのような開示が求められるのかは重要なポイントとなりそうですが、上記のような仮想通貨の法的位置づけの不確実性は、多くが上場企業である仮想通貨関連企業の開示リスクとしてすでに顕在化しています。実際、仮想通貨関連企業に対する米国証券訴訟の件数は近年増加傾向にあり、特に本年は上半期だけで10件の訴訟が提起されています(注4)。最も最近の事例としては、上記のコインベースに対するSECの調査に関連して、8月7日、仮想通貨を有価証券としてSECに登録すべきであることを知りながら米国民に取引をさせ、これに係る規制リスクや当局による調査、行政処分のリスクが高まっていたにもかかわらず、適切な開示をしなかったとして、投資家が損害賠償(上記ロイター報道の翌日、同社株価は21.06%下落)を求め、ニュージャージー州連邦地裁に証券訴訟(クラスアクション)を提起しています(注5)。

上記訴訟ではまた、コインベースが保管する顧客所有の仮想通貨が、同社が破産した場合破産財産として取り扱われる可能性があることを明らかにした本年5月21日付開示に関連して、同社経営者がその事実を以前から知っており、より早い段階で開示する必要があったとして、損害賠償(上記開示後、同社株価は26.4%下落)の対象となる虚偽記載である旨が主張されています。このことも、仮想通貨に係る法的枠組みが確立されていないことに起因するものといえます。

仮想通貨はもともと、株式等と比べると経済的な裏付けが乏しく(あるいは不明確で)、マクロ経済要因、株式や債券など他市場の動向、機関投資家や大規模保有企業(テスラ等)の動向などのほか、主要国(特に米国と中国)の規制動向に影響を受け、ボラティリティが非常に高い資産ですが、関連企業の株価もこれに連動する傾向にあります。特に規制や法的環境のリスクは、仮想通貨の歴史が浅いことに関連するもので不可避といえますが、規制の変更やこれに係る虚偽記載があった場合のインパクトも大きなものとなる可能性があります。米国ほどでないにせよ、仮想通貨の市場規模が近年大きく拡大した我が国においても無関係ではないと思われますが、少なくとも先行する米国での議論の方向性が固まるまで、不透明な状況は続くと思われます。(池谷誠)

注1: 2022年7月25日付ロイター

注2: 2022年8月6日付日本経済新聞

注3: CFTCホームページ

注4: Cornerstone Research, Securities Class Action Filings 2022 Midyear Assessment, p6.

注5: 訴状

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